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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)3808号 判決

事実

原告(野村義文)は被告代理人訴外古河武を通じて被告(鈴木巧一)に対し昭和二十七年二月金二十五万円を弁済期同年四月末日、期限後の損害金日歩三十五銭と定めて貸付けたが被告はこれが返済をしないから右貸金とこれに対する弁済期の翌日より完済までの旧利息制限法の限度たる年一割の損害金の支払を求めると述べ、被告の答弁に対し仮に被告は金二十五万円の借用につき古河武に代理権を与えたことがないとしても、古河は原告が予め交付を受けていた被告所有宅地の権利証、被告の裏書のある約束手形、委任状、印鑑証明書に押捺されている印に符合する被告の印顆を持参し、前示宅地並に約束手形を担保として二十五万円の借用方を申入れたものであるから、原告としては二十五万円全部の借用につき被告の代理権があると信じたのであり、又かく信ずるについて正当の事由があつたのであるから、被告は本人としての責を免れることはできないと主張した。

被告は昭和二十七年二月訴外古河武より金十万円を借り受けたことはあるが、これは同年三月二十五日古河に対し弁済済である。被告が昭和三十年六月二十九日の口頭弁論において「昭和二十七年二月原告より金十万円を借り受けたが同年三月二十五日古河武を通じて原告に弁済した」旨陳述したが、これは事実に反し錯誤に基くものであるから取消すと主張した。

理由

被告の昭和三十年六月二十九日の本件口頭弁論における「原告より昭和二十七年二月金十万円を借り受けた」旨の陳述は、その当時原告より金員を借り受けたとの点については自白したものと解することができる。もつとも被告はその後最終口頭弁論において右陳述を取消し、貸主は原告ではなく訴外古河武であると訂正したが貸主が原告ではないという点についてはこれを認めうる証拠はないので上叙自白の取消はその効力がないといわざるを得ない。而して被告が原告より金員を借用したのは被告の父鈴木保知がその子盛保(被告の弟)と義兄弟の間柄である古河武を通じて被告のために原告から資金の貸与を受けたのであるが、保知は担保とする目的で被告所有名義の宅地の権利証を古河に交付するとともに、被告の印顆をも古河に持参させたことが認められ、右事実と原告本人訊問の結果認められる「昭和二十七年四月末頃原告が被告方に貸金の催告に行つたところ、被告は原告に対しその借用金については古河武に委せてあるから心配はいらない旨を述べた事実」とを綜合すれば、被告はその父保知を通じて古河武に対し資金借入の代理権を与えていたことを認めるに十分である。

もつとも証拠によれば、古河武は被告のために原告より借用した二十五万円の内十万円のみを保知に交付したので保知等は十万円を借用したものと信じていたが、原告が二十五万円を請求してきたので古河に尋ねて始めて古河から実は二十五万円を借用した旨告げられた事実は認めることができるけれども、すでに認定したとおり被告の父保知は被告のために資金を借入れる目的で古河に対し担保とすべき被告所有名義の宅地の権利証を交付し、且つ借用に要する書類に押捺させるため被告の印顆を古河に携行させたのであるから、原告としては十万円を超える金員の借入についても古河に被告の代理権があると信ずるについて正当の事由があつたものといえるし、又原告が右の如く信じて二十五万円を貸付けたことは容易に推定できるので、被告は古河が被告の代理人として原告より借用した二十五万円全額について弁済の責を免れないといわざるを得ないとして原告の本訴請求を認容した。

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